旧日本海軍においては、「ユーモアは一服の清涼剤」とか「ユーモアを解せざるものは海軍士官の資格なし」 とまで言われ、ユーモアや洒落(駄洒落)、夜の遊びの隠語が使われていました。
そして、その伝統は海上自衛隊に確実に継承されています。
護衛艦に1人や2人は駄洒落を頻発する名人がいて場を和ませてくれます。
海軍のユーモアは海の男ばかりの殺伐とした艦内生活、 艦隊勤務特有の長期行動のストレス解消法として生まれた智恵ともいえます。
私も艦内一般公開等で艦上を案内するとき、舷側に装備されている救命いかだを説明する際、 これは救命いかだで艦が沈没したら自動的に開いてフード付きのいかだとなります。
これには何人乗れると思いますか?と良く質問していました。
皆さんはほとんどが15名とか20名と答えます。
私がこれは9名しか乗れないんですよ、というと、
えーつ、たった9名ですかと驚かれます。
そこで私は答えます。
はいこれは9名(救命)いかだです。
これは、質の低い駄洒落ですが、このように艦艇乗員はユーモアを好みます。
笑いのある組織でなければ強くなりません。
「スマートで目先が利いて几帳面、負けじ魂これぞ船乗り」
このスマートには、ユーモアを解する粋な船乗りという意味も含まれています。
旧海軍の先輩たちも驚く有名なユーモアが海上自衛隊にもあります。
2007年7月4日、海上自衛隊の練習艦隊はアメリカ独立記念日を祝う観艦式に参加のため ニューヨーク港に入港しました。
観艦式には世界各国から艦艇約70隻が集結していました。
翌5日にイギリスの豪華客船クイーンエリザベス号も入港してきましたが、
ハドソン河の流れに押され、係留中の海自練習艦「かしま」の艦首部分に接触してしまいました。
クイーンエリザベス号から直ちに、船長のメッセージをもって機関長と一等航海士が 謝罪に「かしま」にやってきました。
相手の謝罪に対して「かしま」艦長はこのように答えました。
「幸い損傷も軽かったし、別段気にしておりません。それよりも女王陛下にキスされて光栄に思っております」
これが大評判になり、集結していた世界の海軍艦艇はもとより、 ロンドンにも伝わって「タイムズ」や「イブニング・スタンダード」も、 日本の海軍士官のユーモアのセンスを絶賛したと聞いています。
このようにユーモア精神は今でも海上自衛隊に引き継がれています。
この艦長は私の1期先輩でさもありなんという立派な方であり、 また当時の練習艦隊司令官は私が現役時代最も尊敬し、 身命を賭してついて行きたいと思っていた先輩でした。