合戦準備
海上自衛隊の護衛艦は戦闘準備の作業を開始する号令として「合戦準備(かっせんじゅんび)」を使っています。
艦の一般公開等において、海上自衛隊の護衛艦は、戦闘準備の号令として旧海軍からの「合戦準備(かっせんじゅんび)」という号令詞を使っています。と紹介すると、10人中10人がコンピューター・ミサイル戦の時代に「合戦(かっせん)」ですかと一様に驚かれます。
私が、平成17年に海上自衛隊の全護衛艦と艦長の教育指導を担当する海上訓練指導隊群司令の配置にあった時、
「合戦準備」は現代の戦闘様相に相応しくない言葉であり、「戦闘準備」という用語に改めようという議論が起こりました。
勿論、私は反対しました。
当時の海上自衛隊の教育界では「戦闘準備」の意見が多かったが、多くの主要幹部の意見も踏まえ、「合戦準備」は今でも生き残っています。
よって、最先端のイージス艦でも「合戦準備」という号令が戦闘態勢につく準備号令として使われています。
北朝鮮の弾道ミサイル警戒に出動するイージス艦も、破壊措置命令がでれば「合戦準備」が艦内に流れ戦闘準備を整えることになります。
この「合戦準備」という号令がかかると、服装を正し、心を正し、身命を賭して国を守る決意と覚悟が生じたものです。
「・・合戦」「・・戦い」「・・役」「・・変」「・・紛争」「・・戦争」等々、戦いの形式によって呼び方が異なりますが、ここではこれらの定義づけはしません。
「・・合戦」と言えば、
両軍が向かい合い、合図で始まる戦(いくさ)であり、指揮官先頭の両軍の大将が馬で進み出て、「やあやあ、われこそは・・・国の・・でござる。」と名乗りをあげ、お互い大義を言い合い、あるいは相手をののしり合い、そして最後に「かかれ」の合図で戦(いくさ)が始まる。
また、敵の大将に要求されれば大将同士の一騎打ちもあります。
このように先手、後手、だまし討ちのない正々堂々とした戦(いくさ)が合戦です。
この観点から見ると、精神を統一したり、相手を威嚇したり、自分を鼓舞する「しきり」があり、「はっけ よーい のこった」の合図で始まる相撲も合戦の型であると言えます。
海上自衛隊での勤務中、米海軍や多くの国の海軍軍人と友人になり、家族同士の付き合いでキャンプに行ったり、大酒を酌み交わしたりして分かったこともがありますが、 どこの国の海軍士官も、トラフャルガーからミッドウェー、フォークランドまで古代から現代までの海戦、戦史を深く勉強しています。
その中で他国の海軍士官が褒め称えるのは日本海海戦やマレー沖海戦の日本海軍の見事な作戦と戦闘に勝利した後の破れた敵兵に対する姿勢、処遇、すなわち武士道精神です。
この「合戦準備」という号令には、お互い海を守るNavy Familyであるが、国の命運を賭けて正々堂々と戦おう。という武士道精神を呼び起こす不思議な力があります。
日本海軍が大東亜戦争における海戦で残した武士道精神は枚挙に暇はありませんが、 大東亜戦争開戦劈頭のマレー沖海戦等、特に破れた敵部隊、敵兵に対して示した武士道精神は誇れるものが多いです。