海軍から引き継ぐ出船の精神
特別な行事、あるいは急患輸送等速やかに時間を短縮して岸壁に横付けるために、入港進路のまま直進して艦首を陸側に横付ける方法を入船入港といい、次回の出港が迅速にできるように艦首を海側にして横付ける方法を出船入港といいます。
海上自衛隊の艦長の表芸と良く言われるのが港での出入港です。
特に長期航海を終えて入港する場合は如何に早く入港(岸壁横付け)して乗組員を早く上陸させたいものですが、海上自衛隊においては入港時間の短縮より、次回の迅速な出港を重視します。
すなわち、海上自衛隊では即応態勢維持のため、旧海軍から受け継ぐ船乗り精神として通常は出船で入港する。入船の場合は真っ直ぐ進み、速力を落として横付けるだけであり、時間も短く、また操艦も比較的容易であるが、出船入港は岸壁の沖で反転し後進で下がるか、回り込まなければならず、操艦も難しく、時間もかかる。
出船係留であれば、緊急時は例え曳船がこなくても自力で迅速に出港できるが、入船の場合はよっぽど風向きが良くないかぎり自力で出港することはできない。
上の写真は海上自衛隊横須賀地方総監部の吉倉岸壁の係留状況ですが、右側のDDH「いせ」は入船入港ですが左の「いかづち」「はるさめ」は出船係留となっています。
「いせ」は造船所で就役後の行事のために横須賀に初入港したため出迎え行事等のために時間短縮と安全を期しての入船入港と思います。
また、上の写真は舞鶴地方総監部のA岸壁の横付け状況ですが、これも港の出口に向けた出船入港です。舞鶴の場合は写真の右側から左に回り込んで写真のように出船係留します。
ただし、呉地方総監部のFバースや佐世保地方総監部のT岸壁のように、岸壁の海側で後進入港のために反転する場所がフェリー等の輻輳する場所や岸壁付近の潮流が大きい場所は反転、後進の入港が危険であり止むを得ず入船入港としています。
下の写真は呉のFバースの入船入港です。
Wikipediaで「出船精神」検索したら、
「出船精神(でふねせいしん)とは、旧日本海軍の伝統で、いつでも確実、迅速に行動できるよう準備を怠らないようにしようとする精神のこと。船舶の桟橋への係留方向についての用語からきている。駐車する際にたとえると、
前進で車の先頭を奥にして停めるのが「入船」、後進で車の後尾を奥にして停めるのが「出船」である。「出船」のほうが「入船」より確実、迅速に発進できる。 このことから、以後の動きをスムーズにするべく事前に用意し、
いつでも使用可能な状態にすることを指す。 海上自衛隊でもこの言葉は使われ実際の入港も長らく出船で行われてきたが、エンジンの騒音問題等を踏まえ、近年は入り船での入港がもっぱらである。」と説明されていました。
この説明の中で、「海上自衛隊でもこの言葉は使われ実際の入港も長らく出船で行われてきたが、エンジンの騒音問題等を踏まえ、近年は入り船での入港がもっぱらである。」という説明はやや誤解があります。
私が横須賀地方総監部の防衛部長の時に横須賀吉倉岸壁の入港を終夜ガスタービン発電機を回す場合は入船とした経緯があります。吉倉岸壁の陸側民有地には高層マンションがあり、高層の住民から発電機の音と振動が煩いとの苦情があり、煙突の排気を海側に向ける入船係留を試験的実施したら騒音問題がなくなったことから、応急的な対策として実施されたものです。
これは、特異な事例であり、基本は出船の精神が綿々と受け継がれています。
家庭の玄関でも靴を出口に向けて揃える、駐車場でバックで出口に向けて駐車することもまさに出船の精神であり、会社で1日の仕事を負えたら道具、資料を片付け、翌日に出勤後ただちに仕事を開始できるようにすることも出船の精神です。